最近、なんとなくニュースを眺めていたら、日本生命がアメリカでChatGPTを作っているOpenAIを訴えたという話を見かけた。
理由はなかなか面白い。
保険の元受給者がChatGPTに相談して「和解を破棄できるかもしれない」という助言を受け、それを元に訴訟を起こしてきたらしいのである。
つまり、日本生命の言い分をざっくり言うとこうだ。
AIが弁護士みたいなことをしたせいで、面倒な訴訟に巻き込まれた。
ということらしい。
法律の細かい話は、正直よくわからない。
私は法律の話を聞くと、だいたい途中で頭の中が「条文」という名の霧に包まれてしまうタイプの人間なのである。
ただ、このニュースを見ていて、妙に気になることがあった。
それは「知識の武装」というやつだ。
世の中というのは、かなり長い間、知識を持つ人が強い仕組みで回ってきたと思う。
弁護士、医者、税理士、金融の専門家。
そういう人たちはもちろん努力して資格を取っているわけだが、同時に「知っている」というだけで圧倒的に有利でもある。
たとえば保険の契約書なんて、普通の人は読んでもほとんど理解できない。
文章が長くて、言葉がやたらと堅い。
あれはもう、読める人だけ読めばいいという雰囲気がぷんぷんする。
私は昔、携帯の契約書を読もうとして三行で眠くなったことがある。
あれは読書というより、睡眠導入剤に近いのではないかと思う。
だから世の中はたいてい、こうなる。
よくわからない人は
「まあプロが言うならそうなんだろう」
と納得してしまうのである。
私もだいたいそのタイプだ。
ところが最近は、様子が少し変わってきた。
わからないことがあったら、とりあえずAIに聞く。
すると、ものすごく丁寧に説明してくれる。
しかも怒らない。
同じ質問を三回しても怒らない。
これはすごいことである。
昔なら、
「そんなことも知らないんですか」
という顔をされるところなのだ。
AIはそういう顔をしない。
顔がないからである。
これは地味にありがたい。
だから今回のニュースも、見方によってはちょっと象徴的だ。
これまでなら、元受給者は
「もう和解したし仕方ないか」
で終わっていたかもしれない。
でも今回は
「ちょっと待てよ」
と思った。
そしてAIに聞いた。
それで理屈を手に入れてしまった。
これが、日本生命にとってはかなり厄介だったわけだ。
もちろんAIの回答が全部正しいとは限らない。
むしろ、けっこう間違う。
私もAIに聞いたレストランに行ったら、三年前に閉店していたということがあった。
あれはなかなかの徒労感だった。
しかし、それでも一つだけ確かなことがある。
知らないままではなくなる。
これは大きい。
昔から、知識というのは少しずつ平らになってきた。
活版印刷ができて、本が広がった。
インターネットができて、検索ができるようになった。
そして今、AIが説明してくれるようになった。
もしかすると今起きているのは、知識の民主化みたいなものなのかもしれない。
……と、ここまで考えてみたが、私はふと気づいた。
知識がいくら手に入っても、行動するかどうかは別問題なのである。
私はAIに健康のアドバイスを聞くが、だいたい三日で忘れる。
つまり人間というのは、知識より先にめんどくささに負ける生き物なのだ。
そう考えると、AIがどれだけ賢くなっても、世界はそこまで劇的には変わらない気もしてきた。
人間がだいたい、だらけているからである。
まあ、それならそれで、AIも少しは安心するのではないかと思うのだ。