私は温泉が好きだ。といっても、有名旅館や絶景露天に胸をときめかせるタイプではなく、どちらかというと「今日も生き延びたな」と体を沈められる湯が好きなのである。そんな私が何度も通ってしまうのが、福岡市内にある 博多温泉 旅館 富士の苑 だ。
新春、特に予定もなく、正月太りの兆候だけが立派に育った私は、日帰り温泉に行くことにした。高温のお風呂と水風呂を、ただ黙々と周回する。これを三回も繰り返すと、人生の悩みの半分くらいはどうでもよくなる気がする。残りの半分は、たぶん気のせいである。
富士の苑は、正直に言えば最新でもおしゃれでもない。入口を見た瞬間、「あ、知ってる、この感じ」と思う。昔、近所にあった銭湯の記憶が、急に押し寄せてくるのだ。私は小学生の頃、銭湯の下駄箱の鍵をよくなくした。今考えると、あれは鍵の問題ではなく、私の注意力の問題だった。
この温泉は泉質にやたらと自信がある。「本物の温泉」「あせもは一回で枯れる」と、なかなか強気だ。最初は半信半疑だったが、湯から上がったあとも体がポカポカしていると、「まあ、そう言われれば…」と都合よく納得してしまう自分がいる。人間は温かいと、だいたい優しくなるのだ。
塩化物泉なので、少ししょっぱい。間違って口に入ると「おっと」と思うが、不快ではない。石鹸の泡立ちは悪く、私は必死に泡を立てながら、「これは泉質のせいだから仕方ない」と自分を慰めた。こういう時、人は責任転嫁がうまくなる。
結局その日も、しっかり温まり、特に人生が変わることもなく帰宅した。ただ、新春の日帰り温泉としては最高だった。変わらない湯に浸かりながら、変わらない自分を確認できたので、それで十分なのである。
ぜひ行ってほしい。いつか泊まりたいと思いながらもそれは実現できていないのである。
参考:福岡市内で仕事帰りにも行ける日帰り温泉 博多温泉 旅館 富士の苑
